1. 事実婚

1-1. 事実婚とは?

事実婚は、法律に基づく婚姻届は出さずに事実上の結婚生活を送っていること。事実婚は届出を必要としないので、事実婚のカップルがどのくらいいるのかは国や自治体の調査では分かりません。しかし社会的にもだんだん知られるようになり、一部の法律においては、婚姻届を出している法律婚のカップルと同じ権利や義務をもつようになってきています。事実婚は「お互いに婚姻の意思を持っている」ということで、特別な手続きがいるわけではありません。

婚姻届を出している結婚(法律上の婚姻、法律婚) → 婚姻届けを出し、二人の「新しい戸籍」が作られる。二人が戸籍の「筆頭者」の名字になる。
事実婚 → 届け出は必要ないが、住民票や公正証書などの書類があると法的手続きや社会的なサービスを受ける際に便利。
同居・同棲 → 手続きは必要なく、一緒に住むこと。

1-2. 事実婚の証明

事実婚には届け出は要らず、「結婚している」と当人同士が認識していればよいのですが、法的手続きや社会的なサービスを受ける際には「事実婚である」と証明する必要があります。その方法として、一般的なのが「住民票の届出」と「公正証書の作成」です。

事実婚の手続き~住民票の届出

すでに一緒に暮らしていて同一世帯の住人として住民登録している場合は、住民票には続柄「同居人」として記載されています。また一緒に暮らしていて男女両方がそれぞれ世帯主、つまり別の世帯として別々に住民登録しているという場合もあるでしょう。この場合、他に同居人がいない限り続柄はそれぞれ「本人」のみの住民票となっています。

これらを「事実婚」とするには「世帯変更届」(「住民異動届」)の手続きをとります。同一世帯の住民で続き柄が「同居人」となっている場合には、世帯変更届の続柄を「夫(世帯主)」「妻(未届)」または「妻(世帯主)」「夫(未届)」に変更します。別々の世帯の場合は世帯合併をして二人を同一の世帯員としつつ、続柄は「夫(世帯主)」「妻(未届)」または「妻(世帯主)」「夫(未届)」とします。 同一の世帯で、かつ続柄が「夫(未届)」または「妻(未届)」と記載されれば「事実婚」であると証明することができ、公的な手続きがスムーズになったり、「夫婦」として特典を受けることなどができます。

また別の自治体から転居してきて、これから転入届を出して一緒に暮らす場合は、転入届に「夫(世帯主)」「妻(未届)」または「妻(世帯主)」「夫(未届)」と届け出ます。

公正証書の作成

公証役場で事実婚に関する公正証書を作成してもらいます。公正証書とは「公証人という法律の専門家によって作成された証書」のことで、契約や遺言を公正証書にすると証明力が高まります。事実婚のカップルの生活において、必ずしも公正証書が必要な場面ばかりではありませんが、家族として手術など医療上の判断をする際や、住宅ローンを二人で組んだり不動産名義を共有にする時、死亡保険の受取人指定の際などに迅速に手続きを進めやすくなることがあります。

パートナーシップ制度

パートナーシップ制度は、2019年7月現在で24自治体が制度を導入していますが、都道府県レベルでは茨城県のみ、その他は下記に示すように市町村レベルでの導入となっています。パートナーシップ制度は、事実婚の異性間カップル、同性婚カップルのどちらか、または両方を対象にしており、公的な効力はなく自治体によって受けられるサービスも大きく異なります。

例えば東京都中野区の場合パートナーシップの関係にあることを宣誓したカップルに対して、パートナーシップ宣誓書や確認書受領証、公正証書等受領証(療養看護や財産管理などに関する委任契約の公正証書の受領証)を交付してもらえます。これらの交付によって不動産の賃貸契約や各種のサービス、さらには医療や財産にかかわる手続きをスムーズに進めることができることを目的としています。

同性婚に関しては現在日本で認められていないことから、憲法13条、14条に照らし重大な人権侵害だとする見方もあり、ゆくゆくは同性婚をめぐる法律が整備されることが望まれます。そのため、このパートナーシップ制度が同性婚カップルを対象とすることについては、同性婚カップルを法的に保障する第一歩として、それまでの過渡期の制度としてとらえるべきでしょう。

パートナーシップが導入されている自治体(2019年8月13日現在)
東京都渋谷区
東京都世田谷区
三重県伊賀市
兵庫県宝塚市
沖縄県那覇市
北海道札幌市
福岡県福岡市
大阪府大阪市
東京都中野区
群馬県大泉町
千葉県千葉市
東京豊島区
東京江戸川区
東京府中市
神奈川県横須賀市
神奈川県小田原市
大阪府堺市
大阪府牧方市
岡山県総社市
熊本県熊本市
栃木県鹿沼市
宮崎県宮崎市
福岡県北九州市
茨城県

1-3. 事実婚を選ぶ背景

事実婚を選んだ人たちの理由はどのようなものでしょうか。「結婚制度や戸籍制度に違和感がある」「嫁や婿、○○家といった家制度に縛られたくない」「対等で自由な関係でいたい」「わざわざ届け出る必要を感じない」といった理由もありますが、もっとも多いのは「夫婦同姓ではなく夫婦別性にしたい」「どちらか一方が公的に名字を変更することに違和感がある」という理由です。現在の日本の婚姻制度のもとでは夫婦はお互いの姓を夫か妻のどちらかの姓に統一しなければなりませんが、「自分の姓を変えたくない」「夫婦が同姓にすることでデメリットがある」などの理由から、公的に別の姓を使うために「事実婚」を選択するというわけです。事実婚のカップルは、積極的に事実婚を選んでいる人ばかりではなく、夫婦別性が法律的に認められていないのでやむを得ず事実婚であるというケースも非常に多いのです。

2. 法的・社会的な手続き

基本的には、法律婚の夫婦も事実婚の夫婦も同じ権利と義務があり、公的・社会的なサービスを利用できますが、税金や社会保障の面でデメリットがあります。以下に各サービスの法律婚と事実婚での違いの有無を見ていきましょう。

2-1. 年金や行政サービス

国民年金の第三号被保険者

世帯主が会社員や公務員をしている場合、年収130万円未満であれば事実婚パートナーでも、国民年金の第3号被保険者や健康保険の被扶養者になることができます。扶養の手続きをするときには、戸籍や住民票を提出します。

遺族年金の受給権

生計を維持していた人が年金加入者で、一緒に生活をしていた事実を示すことができれば事実婚のパートナーでも遺族年金を受け取ることができます。

不妊治療費助成

2018年度より実施が検討されていた、国としての事実婚カップルへの不妊治療費用の助成制度は「父親があいまいになる」という納得しがたい理由から見送られました。国として少子化対策をうたっている一方で、子どもがほしい、出産したいというカップルがいるのだからそこに税金を投入するのは理に適っているように思うのですが。

自治体として以前から助成を行っている京都府や、2018年度から東京都では事実婚のカップルが対象となり、少しずつ事実婚カップルへの不妊治療費の助成は広がっています。

参考
毎日新聞2018年1月18日 06時30分
事実婚の助成見送り「父子関係の検討必要」
https://mainichi.jp/articles/20180118/k00/00m/040/138000c (外部リンク)

2-2. 税金・相続

所得税・住民税の配偶者控除・配偶者特別控除

事実婚の場合、税法では扶養家族と認められず、配偶者控除や配偶者特別控除など税金の優遇は認められません。

相続権、相続税の控除・税率における優遇

たとえ長年一緒に暮らして共に財産を築いてきたとしても、事実婚のパートナーには法定相続人としての権利がありません。事実婚カップルはお互いの財産について遺言書等で取り決めをしておいた方がいいですが、相続税の控除は受けられません。
その他、医療費控除の夫婦合算はできません。

2-3. 企業や自治体によって対応や判断が異なるもの

下記については手続きをすれば、事実婚でも対応してくれる企業が多く、同一の住民票や事実婚を証明する公正証書があるとスムーズに進むことがあります。

  • 健康保険への配偶者加入
  • 死亡保険の受取人
  • 企業の配偶者手当
  • 手術時のサインや病状の説明
  • 金融機関のローン
  • クレジットカードの家族会員
  • 携帯電話会社のファミリー割引
  • 自動車保険の家族割引
写真提供:Naassom Azevedo

3. 事実婚のカップルの子ども

事実婚カップルの子どもについては「親権」の扱いがもっとも大きな法律婚との違いになります。子どもの親権は母か父の単独親権となり、父母が共同親権を行使できないなど、実際に子どもにとってデメリットも少なくないため、子どもの誕生を機に法律婚を選ぶカップルが多くなっています。

法律婚をした男女の子(嫡出子) → 父母の共同親権
法律上の婚姻関係がない男女の子(事実婚など非嫡出子、離婚後など → 母か父どちらかの単独親権。親権を変更する手続きをしなければ母親が単独で親権をもつ。

3-1. 親権は父母のどちらか単独となる

親権とは「子どもの利益」のためにある、子どもを育てる親の権利義務のことです。大きく分けて次の二つがあります。

身上監護権:子どもと生活して世話や教育をすること。
財産管理権:子どもの財産管理や子どもが法律行為をする時、子どもの代わりに契約、訴訟などの法律行為ができる権利

親権は父母が婚姻していれば、父母が共同で親権をもちます。父母が婚姻していなければ、父母のどちらかが単独で親権をもつことになります。

父の単独親権は

生まれた子どもの親権は母親にあります。父が親権を取得するためには、母の単独親権から父の単独親権に変更する手続きが必要です。父が子どもを認知している上で、父母の協議によって合意し、父を親権者とするときは「親権管理権届」を自治体に提出します。

協議で合意に至らない場合は、裁判による手続きとなります。まず家庭裁判所に親権者変更調停の申立てをします。調停が不成立になった場合は審判手続となります。

参考

3-2. 事実婚の子の戸籍は

通常は母親の戸籍に入る(母の氏になる)

法律婚の夫婦の場合、妻が妊娠して出産して出生届を出せば子どもは両親の子になり、両親の戸籍に加わります。

事実婚の夫婦の場合、出生届を出すと母親の戸籍に子どもが入籍するか、母親が自分の親の戸籍に入っている場合は、母親を筆頭者とする新戸籍が編成され、母の戸籍に入ります。姓は母の姓となります。また、親権は原則として母の単独親権となります。

そして父親が認知すると、子どもの戸籍の父の欄に父の氏名が記載され、また、父親の戸籍にも、子どもを認知したことが記載され、法律上父子関係が確定します。

父親の戸籍に入れる(父の氏にする)場合は

もし父と同じ戸籍にして、子どもが父親と同じ姓を名乗る場合は、認知(次節で説明)している上で次のような手続きをします。

子どもの戸籍を移動するためには、「子の氏の変更の許可申立」を家庭裁判所にし、許可を受けた後で父親の戸籍に「入籍」手続きをする必要があります。(子どもの年齢が15歳未満であれば法定代理人(親権者)が、15歳以上であれば子ども自身が申し立てます)。裁判所が発行した「審判書」や「入籍届」などを子どもの本籍地または届出人の住所地の役所に提出して「入籍」の届出をします。そうすると、子どもの戸籍は父親の戸籍にうつり、父親と同じ氏になり、子どもの戸籍の母の欄に母の氏名が記されます。

参考

3-3. 子を守る、認知

事実婚による父と子は、父親の認知によって初めて法的な父子関係が成立します。認知とは、法律上婚姻関係にない男女の間に生まれた子どもを、男性が自分の子どもである、と認めることです。認知は役所に「認知届」を出すことで手続きします。

父親が子どもの認知届を出すと、母親が筆頭である子どもの戸籍の「父」の欄に父の名(母親の夫の名)が記入され、父子関係が確定します。ただし父母共同親権となるわけではなく、親権は母親の単独親権のままです。しかし、父親にも親子関係に基づく権利や義務が生じ、以下のようなります。

  • 父親に対し、養育費の請求が可能になる
  • 父親の財産について、子どもに相続権が発生する

逆にいえば、父親が認知しないと法律上、父と子の間に父子関係が成立せず、戸籍の続柄にも記載されません。養育費を父親に請求できない、父親が亡くなっても財産の相続権がない、という子どもにとって大きな不利益が生じる可能性があります。

参考

本澤巳代子・大杉麻美・高橋大輔・付月『よくわかる家族法』ミネルヴァ書房 2014年

4. 事実婚の関係解消

事実婚の関係解消は、次のような法律婚の離婚と同じ権利や義務があります。

財産分与

二人で築いた共有財産があれば二人で分けます。

慰謝料

事実婚の解消について、そちらか一方に責任がある場合は精神的苦痛に対する損害賠償として慰謝料が発生します。事実婚の慰謝料の相場は法律婚よりも少し低いと言われていて、100万円~200万円程度です。

養育費

子どもがいれば引き取った方が相手方に子どもの養育費(扶養費)を請求します。

5. パートナーの死亡

事実婚の場合、自分が死んだ際に相手に相続権がないので、パートナーに財産を残したい場合は生前贈与や遺贈するために遺言書を作成する、生命保険の受取人をパートナーにするなどの対策をしておきます。また、相続税の配偶者の税額軽減の適用もないので、相続をする場合相続税の額に2割の加算があります。また生前贈与も配偶者控除の適用がないので、相続税が法律婚の夫婦の場合より多くなります。

参考
杉浦郁子・野宮亜紀・大江千束 『パートナーシップ・生活と制度【増補改訂版】』 緑風出版 2016年9月

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監修

アイリス綜合行政書士事務所
行政書士・FP 田中真作
早稲田大学法学部卒業。行政書士・FP・宅地建物取引士。2003年行政書士登録。
相続や離婚などの一般市民法務相談や各種許認可業務など幅広く対応。
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