アメリカで生まれた俗語“トロフィーワイフ”とは?

アメリカでよく使われる俗語に「トロフィーワイフ」という言葉があります。トロフィーのような妻。つまり、男性が自らの成功を他人にアピールするのにうってつけな、若く、美しく、育ちの良い妻のことを指します。夫がお金持ちで、妻が若くて美人という組み合わせの場合、周囲からそう言われることがるようです。

よい意味で使われている言葉ではないので具体的な人名を出すのははばかれますが、権力者、成功したアーティストや実業家とのその妻がそれに当てはめられます。例えば、日本で歴史上の人物でいうと、太閤豊臣秀吉の側室である淀君。秀吉は元は百姓の息子でしたが、一代で立身出世して天下をとりました。淀君は、秀吉の主君であった織田信長の姪であり、絶世の美女であったお市の方の娘で、秀吉より30歳ほど年下。まさに、淀君は秀吉にとって獲得したトロフィー、天下を象徴する存在と言えました。正妻であった糟糠の妻(そうこうのつま)おねは武士の娘ではありますが、父親は織田信長の家臣でした。その点からして、秀吉はランクアップした妻を新たに娶ったというイメージがあります。

単純に考えると、経済力や権力があって自由に選べる立場の男性が、若く、美しく、育ちのよい妻を選ぶというのは意外なことではありません。現代でも、実際に何組か例が浮かぶことでしょう。しかし、トロフィーワイフの存在について異論もあります。それは何故なのでしょうか。

成功すると糟糠の妻を捨てる?“トロフィーワイフ症候群”の真実は?

“トロフィーワイフ症候群”とは、自分が成功するまで苦しい下積み時代を支えてくれた「糟糠の妻」を捨て、トロフィーワイフと新たに結婚することを指します。秀吉は淀君を側室にしても、おねを正妻として大切にしましたが、現在の日本ではそれは許されません。夫は成功すると、妻を取り替えることになってしまうわけです。

よく話題になるのは、成功したミュージシャンが苦労を共にした妻と別れ、女優やアイドルなど、美しく若い女性と再婚するケース。自分が成功した途端、自分には若く華やかな妻が相応しいとばかりに、これまで支えてくれた妻を捨てるという印象があり、少なからず非難を浴びます。確かにミュージシャンには少なくない例ですので、症候群と呼ばれるのもうなずけます。しかし、ミュージシャンの再婚にせよ、本当にそれが“トロフィーワイフ症候群”なのかというと異論があります。

もちろん、妻のいる身で、他の女性に心が移るのは良いこととは言い難いです。しかし、女優、アイドルとの再婚は、職場結婚という見方もできます。同じように芸能界で仕事している女性のほうが、一般人で、芸能界のことが分からない女性よりも、彼の仕事のことをよく理解できることでしょう。単純に美人で若い女性を妻にしたいからというわけではない可能性もあります。

また、スターになって極端に忙しくなり、すれ違いが増えた結果、妻のほうが夫への愛情を失っていくこともあるはずです。成功していなくても、家族として共に穏やかな暮らしたいと考える女性だっているでしょう。

いかにもトロフィーワイフ症候群という状況であっても、男性が新しいより良い玩具をほしがるような子どもっぽい思考で、長年連れ添った妻より華やかな若い女性を選んで乗り換えというのは、一方的すぎる見方かもしれません。

トロフィーワイフは実はレアケースにすぎない?

実は“トロフィーワイフ”という言葉を生んだアメリカで、トロフィーワイフはレアケースで一般的ではないとする見方もあります。

2014年に、ノートルダム大学とインディアナ大学で、成功した男性と女性を結びつける要素を調査しました。それによると、容姿の優れた男性は容姿の優れた女性を選び、成功している男性は、同じように成功している女性を選んでいることが多かったとのこと。つまり、男女ともにお互い自分と似た要素のある相手を選ぶ傾向があったのです。

https://www.excite.co.jp/news/article/HealthPress_201602_post_1351/ (外部リンク)
「ベッキーの不倫騒動で浮上~なぜ、成功者はパートナーの"グレードアップ"に走るのか?」エキサイトニュース

もちろん、容姿の劣る成功した男性が、美しい若い女性と結婚することは皆無ではありません。しかし、そうした結婚は目立ちます。レアケース故に目立つのです。人の話題にもなりやすいでしょう。だから、そうしたケースがよくあることのように感じてしまうのではないでしょうか。周囲をみても、玉の輿婚と似た者夫婦なら、圧倒的に似た者夫婦が多いはずです。

トロフィーワイフは結婚後は永遠にトロフィーたれない

成功した男性と結婚し、何不自由ない豪華で満たされた暮らし。しかし、それが絶対に幸せにつながるという保証はあるのでしょうか?

まずトロフィーワイフの夫は妻よりかなり年上であることが多いです。そのため、育った環境、価値観が異なることもあるため、実際の結婚生活ではうまくいけないケースも多いのではないないでしょうか。もちろん、人にもよりますが、一緒に子供を育てる上でも若いパパと異なり、非常に腰が重く、実際の子育てには非協力的であることも考えられます。夫の男性的魅力も年齢を重ねるごとに衰えてしまうこともあり、昔より年老いた夫を愛せなくなってしまうこともあるでしょう。

また、若く、美しい妻といいますが、当然ですが、そんな彼女自身も年月を重ねればそのままではいられません。若さと美しさを武器にしたのなら、尚更結婚したその瞬間が頂点になってしまい、その後は価値が落ちるばかりという見方をされかねません。夫は新たなトロフィーを求めることも考えられます。

お金があれば何でもかなうはずとも思いますが、何でもお金でかなうからこそ失うものもあります。先の心配が何もなく、努力する必要もない。つまり、それは目標がない状態です。全てお金で解決し、目指すものがなくなってしまった時、人生に張りがなくなり、自分を高める必要性も感じなくなります。元大統領夫人であり、当時のファッション・リーダーであったジャックリーヌ夫人。23歳の年の差のある大富豪オナシスとの再婚は、長年の愛人だったマリア・カラスから略奪する形だったせいもあり、大変評判の悪いものでした。そのせいもあって、彼女の評判は地に落ち、世界を魅了していた彼女の魅力やセンスまでも精彩を欠くようになったと言われています。トロフィーワイフになったらからこそ、トロフィーとして輝き続けるのが難しいとすると皮肉な話ですね。

 

トロフィーワイフというキーワード1つとっても夫婦のあり方は単純ではないなと考えさせられます。理想としては、お互い自分だけのトロフィーであることのように思います。