母親や親族が着る、黒留袖の選び方、着方
1.黒留袖とは
黒留袖は、既婚女性の第一礼装(正礼装)です。黒色で地模様がない縮緬(ちりめん)の生地が用いられ、裾に模様が入ります。もともとは既婚女性が独身時代の振袖の袖を短く縫い留めていた江戸時代の文化に由来するようです。
結婚式で着る黒留袖には両胸・背中・両袖に紋が入った「五つ紋」を入れることで、より格式の高い着物となります。紋については後述しますが、ご自身で仕立てられる場合には黒留袖には五つ紋、色留袖には三つ紋または一つ紋を入れるのが主流になっています。
2.黒留袖は、いつ、誰が着る?
黒留袖を着る機会としてもっとも一般的なのが結婚式です。新郎新婦の母親以外にも、両家の親族の既婚女性(祖母・おば・姉妹など)、仲人の女性が着る礼装です。既婚女性であっても友人として出席する結婚式に黒留袖を着ていくのは控えましょう。主役の母親と同格または格上の着物を着ることはマナー違反となるためです。
結婚式以外では、結納の際に母親や仲人が着ることもあります。ただし最近では略式結納が増えており、黒留袖を着る人は減ってきているようです。また赤ちゃんのお宮参りでも黒留袖を着ることができます。以前は父親側の祖母が赤ちゃんを抱っこしてお宮参りをするのが正式とされていましたが、現代では薄れています。
ちなみに未婚女性の第一礼装は振袖ですが、これは親族だけでなく友人も着ることができます。
3. 黒留袖の選び方
季節
黒留袖は慶事に着られる和装のため、どれもおめでたい模様が裾に入っています。訪問着や付け下げなどは四季折々の植物などをあしらった模様も多いため着る季節を選びますが、基本的に黒留袖は季節を選びません。また生地も黒縮緬のため、一年を通して着ることができます。
年齢
黒留袖は既婚女性が着る礼装ですが、年齢に応じた柄の決まりがあるわけではありません。そのため好みで選んでも問題ありませんが、ふさわしい着物としては、新郎新婦の母親は落ち着いた印象の中にも格調の高さを感じさせる柄がおすすめです。集合写真では最前列に座り、披露宴の最後の挨拶ではゲストに注目されるため、納得のいく柄を選びたいものです。
黒留袖は裾模様が特徴的ですが、その模様の位置が低くなるほど落ち着いた印象になります。おばや祖母など年配の女性は模様の面積が小さめのもの、姉妹など若い女性はご身長に合わせて模様がおはしょりにかからない程度に高い位置まで入った華やかなものを選ぶといいでしょう。また帯の柄も母親は格の高いもの、年配の方はシックなもの、若い女性は鮮やかなものを合わせるとより映えます。
縁起
黒留袖の吉祥模様には、二人や両家の幸せと繁栄を祈る意味が込められています。見た目のイメージだけでなく、その意味も知っておくといいかもしれません。
鶴・亀・鳳凰・牡丹・松竹梅など...不老長寿
貝桶・相生松など...夫婦円満
すずめ・雪の結晶など...豊作
宝船・扇・七宝など...栄華
ぶどう・唐子など...子孫繫栄
4. 小物のあわせ方
帯
黒留袖には袋帯を合わせるのが一般的です。袋帯は表側だけに柄が入っている帯です。
礼装である黒留袖には、地色が白・金・銀を基調にした格式高い帯を合わせましょう。結び方は二重太鼓が正式ですが、若い女性が黒留袖を着る場合などには、変わり結びでも良いようです。
帯締め、帯揚げ
帯締め・帯揚げともに白、金、銀のものを合わせます。
帯締めの形は平らなもの(平組)や円状のもの(丸組、丸ぐけ)のものがあり、平組、丸組、丸ぐけの順番で格が上がるとされています。ただしこちらはあまり気にする必要はないようです。平組の帯締めの場合は、より太いものを選ぶといいでしょう。
帯揚げは縮緬または綸子(りんず)生地のものを使用します。
衿
襦袢に縫い付ける半衿も白を合わせます。金糸・銀糸で刺繍があるものも合わせることができます。
草履・バッグ
草履とバッグは金または銀をベースにしたものを選ぶとフォーマルです。コーディネートの引き締め役となりますので、セットになったものを選ぶと安心です。礼装の草履はかかとが高いほど良いとされています。また、バッグに荷物が入りきらない場合には、和装用のサブバッグを利用するといいでしょう。
末広
帯に差す飾りの扇子のことを末広と呼びます。表が金、裏が銀となっており、帯に差す際には金色側が見えるように差します。
肌着・足袋
肌着や長襦袢、足袋はすべて白を着用します。長襦袢はさまざまな色・柄のものがありますが、色が淡いほど格式が高いとされています。礼装である黒留袖を着る際は、必ず白を選びましょう。
帯留め
帯留は帯締めの上に留めるアクセサリーですが、黒留袖にはつけないことが多いようです。結婚式での和装は、結婚指輪以外のアクセサリーはつけないのが基本です。
5. どこで準備するか?相場は?
黒留袖は購入するほか、レンタルすることも可能です。20~30代のうちに黒留袖をあつらえておきたい方や仲人を頼まれる機会が多い方は購入するのも手ですが、現在ではレンタルを選ぶ方がほとんどです。
レンタルする
結婚式場や衣裳店などで行っており、新郎新婦の衣裳をレンタルするお店で一緒に黒留袖も借りることが多いようです。また通販のようにネットレンタルも可能です。
レンタルで黒留袖を用意する場合、帯や小物などを一式でレンタルできるうえに、知識を持ったプロにコーディネートしてもらえるため安心です。
式場や衣裳店によって差はあるものの、2~10万円ほどの範囲で取り揃えているところが多いようです。黒留袖の質によってはさらに高額なものもありますが、式場の格やゲストとの関係性・年齢層などを考慮したうえで選ぶようにしましょう。ネットレンタルでは1~2万円が相場のようです。どこでレンタルする場合でも、料金に小物が含まれているかどうかを確認し、予算に合わせて選ぶことが大切です。
購入する(あつらえる)
呉服店や百貨店の着物売り場、最近ではインターネットショッピングでも購入可能です。
購入の特長としては、好みの柄の着物・帯・小物などを選べる点にあるでしょう。こだわりたいポイントがある方や、ひいきにしているお店がある方は購入するのもおすすめです。一生の財産となるという長所もあります。
購入する場合、百貨店で購入すると留袖とお仕立て代、小物一式で最低50万円ほどは必要となるでしょう。小さな呉服店だともう少し価格が抑えられることもあります。またネット販売だとさらに安いものもあるようです。また購入すると着た後のクリーニングも必要になるため、維持費もかかることを知っておきましょう。
紋の入れ方
結婚式という晴れ舞台では第一礼装かつ格式の高い五つ紋の黒留袖が最適とされています。紋は一つ、三つ、五つという入れ方があり、家紋が入っているのが正式です。
購入の場合には家紋を入れてもらうことができますが、レンタルの場合には桐や蔦、花菱といった「通紋(個人の家を表すものではない、一般的な紋」が入っています。レンタルでも紋を家紋にしてもらえる場合がありますので、家紋を重んじる家の場合には問い合わせてみるといいでしょう。現在では手軽に紋を入れられる「貼り紋」(家紋シールのようなもの)というものもありますので、プランナーや衣裳スタッフに確認してみるといいかもしれません。
6. おすすめの黒留袖、コーディネート
末広がりの扇と花々が艶やかな、新郎新婦の母親にぴったりの黒留袖。華やかながらも風合いのある色味で、大変上品な印象になります。帯は円を重ねて七つの宝を模した七宝模様で、子孫繁栄と家庭円満を表しています。
幸福・富貴といった意味を持つ百花の王・牡丹をはじめとする花と色紙の上を、延命長寿の象徴である鶴たちが華麗に飛翔する品格ある模様です。新郎新婦やゲストの幸せを願う柄が、おもてなしをする母親にふさわしい一着です。
神様へのお供え物である縁起物の熨斗を全面に配し、長寿を願ったデザインです。帯状の熨斗には鮮やかな文様が描かれ、落ち着いた中にも慶事にふさわしい華やかさがあります。
扇形の地紙に、四季折々の植物たちをあしらった華やかな一枚です。桜に梅、松、紅葉、そして牡丹など、目にも鮮やかな柄がおめでたい日を彩ります。背景には水の流れを模した波が描かれています。
長寿に続くとされる熨斗に、大小の花が咲き乱れる一枚。みずみずしさを感じさせる色使いから、新郎新婦の姉妹など若い人にも似合う黒留袖です。
途切れずに続いていることから、悪いことも克服して未来永劫栄えるという意味が込められた唐草模様。少し個性的で流れるような模様なので、背の高い若い女性に向いた一枚です。花菱に唐草を合わせた帯とコーディネートするとよりおしゃれな雰囲気に。
7. 黒留袖のヘアメイク
ふさわしいヘアメイク、髪飾りなど小物
黒留袖を着る際のメイクはあまり色を使わず、マットで落ち着いた質感に仕上げます。アイメイクはシャドーを入れるよりもアイラインを太めに引き、リップはブラウン系のレッドなど品のいい色を選びましょう。肌は明るめにしますが、ハイライトやラメ、パールは控えめに。
ヘアスタイルはロングヘアならば夜会巻きのようなシンプルなアップスタイル、ショートヘアならばきれいにブローをして顔回りをすっきりとさせます。ゲストの方への挨拶で頭を下げる機会が多いため、髪の毛が顔にかからないようなヘアセットを選びましょう。
髪飾りはパールや螺鈿、べっ甲などがおすすめです。後ろから見た際に華やかな印象を与えるものを選ぶといいでしょう。
あわせる小物の素材としてタブーなものは、動物の殺生を連想させるもの(毛皮や革製品など)です。そのため、寒くても毛皮製のショールなどを巻くのは避けたいところです。
アクセサリーなど
黒留袖を着る際のアクセサリーは結婚指輪のみにしておくのがマナーとされています。ファッションリングやイヤリング・ピアス、ブレスレットなどは外していきましょう。腕時計は「時間を気にする」という姿勢が失礼に見えることから、親族もゲストも結婚式ではつけません。アクセサリーを身につけない代わりに、髪飾りで和装ならではのおしゃれを楽しんでみましょう。
8. 親族、父親のドレスコード
親族でドレスコードを合わせる必要があるか?
母親が黒留袖でも、親族全員が第一礼装でなければならないというわけではありません。ただ未婚女性は振袖、既婚女性は黒留袖、というように第一礼装で揃えることで、華やかさとゲストへのおもてなしの気持ちを込めた装いとなります。
ただし親族の既婚女性でも、遠い親戚は黒留袖にはあまり向きません。和装にしたい場合は訪問着や一つ紋色無地などにするといいでしょう。また、既婚の姉妹で黒留袖に抵抗がある場合は、和装ならば色留袖にするという手もあります。
両家の母親の着物は合わせる?
第一礼装である黒留袖は、ちぐはぐな印象を与えないよう、両家の母親が同じ格式のものを着るようにしたいものです。片方が自前の着物、片方がレンタルという場合は、紋の数など事前に確認しておくと安心です。
父親は何を着る?
母親が和装の黒留袖を着る場合でも、多くの結婚式では父親は洋装で第一礼装のモーニングを着ることが多いようです。父親も和装にする場合には、黒の五つ紋付き羽織袴を着用しましょう。新郎の和装と同じ衣裳になりますので、袴の色や縞の太さ、鼻緒の色などで新郎より控えめにコーディネートするのがおすすめです。父親同士も礼装の格を両家で揃えるようにしましょう。