映画『マンマ・ミーア!』は日本でも劇団四季によって今も上演されているミュージカルをメリル・ストリープ主演で映画化した作品です。その魅力はなんといっても世界的にも人気の高いABBAの楽曲、舞台となったギリシャのエーゲ海に浮かぶ明るく美しい島での結婚式、元気な若者たちと訳ありでユニークな中年男女といった登場人物です。主人公は島でホテルを経営するドナと、一人娘である結婚を明日に控えたソフィです。
娘の結婚式がママの結婚式に変更!?映画『マンマ・ミーア!』
仲良し母娘だからこそ言えない“パパ”のこと
ドナはシングルマザーで、たった1人でホテルを経営し、娘ソフィを育ててきました。ホテル経営というとお金持ちそうなイメージがありますが、実際にはそのホテルはあちこち壊れていて、宿泊客も少なく、請求書はたまるばかりという状態。ドナはかなりお疲れぎみですが、それでも一人娘のソフィのために一生懸命結婚式の準備をしています。
小さな娘にするようにウェディングドレス姿のソフィの背中を抱っこしながら、彼女の髪を結い、マニュキアを塗るドナ。どんなときでもたった2人で寄り添って生きてきた母娘。その愛情の深さが感じられる場面です。
そのとき、ドナが歌う『Slipping Through My Fingers』は、娘リンダのこと思ってABBAのボーカリストであるアグネッタが作ったもの。娘を持つ母親の心情が表現されています。“Slipping Through My Fingers”(私の指を通り抜けてしまう)のは、成長していく小さな娘との大切な時間であり、“I wish that I could freeze the picture”(その光景を凍らせてとっておきたい)と願っても、それはけっしてできない切なさを歌っているのです。
確かに母親が小さな娘と一体のような状態で一緒にいられるのはわずかな間、それなのにとくに仕事を持つ母親はその大切な時間もさらに短くなってしまいます。そのとき感じるやるせなさは万国共通の感慨なのでしょう。こんなふうにドナに愛情いっぱいで育てられたソフィは明るく、元気がよく、母子家庭で育った寂しさは感じさせません。しかし、実は密かにまだ見ぬパパとバージンロードを歩きたいと夢みています。
ソフィはドナの昔の日記を見つけ、それにより実はソフィのパパ候補が3人いることを知り、その3人の男性を自分の結婚式に招待します。しかし、もちろんそれはドナには内緒です。父親の分まで愛してくれた母親に「パパに会いたい!」なんて言えるわけがありません。
2人で生きてきたのは幸せだったけど…母親と娘の思い残し
ソフィは結婚することよりもパパとバージンロードを歩くことにこだわっているように感じられます。それは、ソフィの父親捜しを知った婚約者であるスカイにも指摘されてしまいます。ソフィはドナに愛されて幸せな娘ではありますが、やはり父親のポジションが不在であることは大きなことだったのです。
また、実のところドナも娘がいて幸せではありましたが、心から愛した男性と別れてしまいそのままになったことは心残りだったのです。
娘の式は中止しましたが、母親ドナがこのとき、3人のうちの1人と結婚。母親思いのソフィ。父親を求める気持ちと同時に、自分が愛する男性と去っていくにあたって、母親を1人寂しくおいてはいけないという気持ちがどこかにあり、今回の事件を巻き起こしたのかもしれません。