仕事がうまくいかない―そんなときは誰でも落ち込みますよね。仕事ばかりか、すべてがうまくいかない気がする。すると、普段は何でもないことが、悪いサインのように思えて。負のループにはまってしまいます。若い頃に、そんなことがありました。何もかもに自信がなくなって、妻に愚痴をこぼしたんです。

「ぼくは、君を幸せにするって約束したけど、どうやら無理みたいだ」  妻の反応は、こうです。 「私、あなたに幸せにして貰おうなんて、一度も思ったことないわよ」  ぼくはひがみました。 「どうせ、ぼくは頼りにならないからな」

だって、そうでしょう。こういうときは、そんなこと言わないで、約束を守ってよ、とか、あなたなら、私のことを幸せにできるわ、とか、励みになる言葉を期待している。男って、そういう言葉でアドレナリンが出て、奮い立つ生き物なんです。ところが、続いた妻の言葉は、意外なものでした。

「そうじゃないわ。幸せって、人に与えて貰うものじゃないでしょ。自分でつかむものよ」

ぼくは内心、びっくりです。彼女が、そんなことを考えていたなんて。妻に、強い女性のイメージは、全然ありません。ごくごく普通の、どこにでもいる平凡な女性です。でも、そのときの彼女は、物凄く、強い女性に映りました。

「じゃあ、どうしてぼくと結婚したの?」 「それが、私の幸せの条件の一つだったから」

なんて男前な!女王様!いや、女神様!この人についていけば間違いない!

ぼくは、とっても気持ちが軽くなりました。面白いもので、仕事もうまくいくようになった。あれから長い歳月が過ぎました。いま、とっても幸せです。