2015年4月1日、渋谷区で「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」が施行されました。性別等にとらわれず、多様な個人が尊重され、一人ひとりがその個性と能力を十分に発揮し、社会的責任を分かち合い、ともにあらゆる分野に参画できる社会の実現を目指した新たな条例ということで登場したこの条例が、多くの反響を呼んでいます。それは、同性婚に道を拓く「パートナーシップ証明」が含まれているからです。
同性婚という高いハードルを越える渋谷区のとりくみ、パートナーシップ条例
価値観の多様性の尊重から生まれた同性婚
同性婚は、社会的少数者である性的マイノリティ(LGBT:Lesbian、Gay、Bisexual、Transgenderの頭文字をとったもの)を重視し、価値観の多様性を尊重した制度ですが、日本では、憲法24条「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」がある以上、憲法違反となるために認められていません。
しかし海外では、多くの欧米各国とオーストラリアが、パートナーシップ法も含め合法として認めています。一方、同性婚を認めない国と地域はアジア・アフリカに多く、特にイスラム教徒が多い中東・北アフリカエリアでは刑罰を課しています。同性婚を認めている各国では、結婚における同居、協力、扶助、貞操など互いの義務と、生活財の共有権や遺産相続権などの互いの権利を相互に規定した契約関係が同性のパートナー間にも認められており、さらに政府はそれを公証し、制度的な保障を法律的に整備しています。その中には、今回のパートナーシップ証明も含まれています。
パートナーシップ証明は10月末から
渋谷区で「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」が施行されたのは、現渋谷区長、長谷部健氏が渋谷区議員であった2012年6月の議会で、同性カップルを対象とした証明書導入の提案をしたことにはじまります。その後、2015年3月に条例案を区議会に提出し、可決され施行されました。その後の4月の統一地方選で区長に当選し、パートナーシップ証明は、渋谷区民の支持を得たということができるでしょう。
しかし、4月1日に施行された条例には、パートナーシップ証明についての申請手続きその他必要な事項は、具体的に定めていません。5月27日に開いた記者会見の中で、長谷部区長は、全国初となる同性カップルに「結婚に相当する関係」を認めるパートナーシップ証明書について10月末の発行を目指す考えを示し、証明書の発行について「積極的に推進していく」とした上で、「日本で初めてのことなので、なるべく完璧に近い状態でスタートしたい」と述べるに留まりました。今後の動きに注目したいところです。
パートナーシップ証明が発行されたカップルには、欧米各国と同様に、市内の病院、刑務所での面会権、学校に通う子の情報を同性カップルの両親で得る権利を認めるなど、さまざまな便宜を図ることが期待されています。また、事実婚の1つである住民票婚と同様に住民票を一緒にすることができれば、住宅ローンも共同で組めて、携帯電話の家族割や、飛行機のマイレージの共有、保険会社によっては生命保険の受取人にもなることができるようになるでしょう。そのような具体的な制度設計はこれからということになります。
ホンネと建前のせめぎ合いがはじまるかも
今後は、各地方自治体レベルの条例として、このパートナーシップ証明が広がる動きも出ています。この動きは、社会的な建前としては歓迎されることでしょう。なぜなら、欧米の先進各国の企業が、マイノリティを重視し、男女平等及び多様性を尊重する社会を推進するCSR(企業の社会的責任)活動に取り組んでいる動きに呼応するように、日本の大企業の多くも、女性の社会的地位の向上や外国人や障がい者雇用などに積極的に取り組んでいるからです。
しかし、メディアの世界でみていたLGBT、同性婚を目指すカップルが、現実に隣に住むようになった時に、ホンネでは気持ち悪いとか、近寄らないといった態度をとる人が出てくるかもしれません。特に年配者では、ホンネと建前のせめぎ合いが起こるでしょう。そのようなコンフリクト(葛藤や対立)を経て、ようやく日本的な同性婚のイメージが醸成されていくのではないでしょうか?