離婚後300日以内に生まれた子は「前夫」の子?嫡出推定と離婚後300日問題、無戸籍問題

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先日タレントの加藤紗里さんが都知事選挙の応援演説に立ち、「離婚後300日問題って知っていますか?」と聴衆に問いかけ、「離婚後、300日以内に産まれた子どもは元旦那の籍に自動的に入ってしまう。明治時代に作られた法律が未だに使われているんです」と話しました。彼女は2019年9月に結婚を発表、2020年1月に離婚を発表、4月に出産を報告しており、はっきりした離婚や出産の日は分かりませんが、離婚後300日以内に出産しているということになるようです。この加藤さんがいう「離婚後300日問題」について解説いたします。

参考
index 目次
  1. 離婚後300日以内に生まれた子は「前夫」の子とみなされる
  2. 出生届を出さず子どもが無戸籍に
  3. 「前夫」を父としない子どもの戸籍をつくるには
  4. 「嫡出推定」の規定の見直しへ向けて

離婚後300日以内に生まれた子は「前夫」の子とみなされる

民法772条では次のように規定されています。

民法第772条「嫡出推定」(ちゃくしゅつすいてい)
  1. 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
  2. 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

※嫡出(ちゃくしゅつ)とは
:子どもが法律上婚姻関係にある男女から生まれること。

つまり、

  • 結婚している間に妻が妊娠したら、(たとえ父親が別の男性だったとしても)夫の子どもであるとみなす。
  • 結婚した日から200日経過後に生まれた子どもは、夫の子どもであるとみなす。
  • 離婚した日から300日以内に生まれた子どもは、前夫の子どもであるとみなす。

というわけです。

本来の趣旨は子どもの立場を守るため

なぜこのような法律が定められたのでしょうか。民法が制定された明治時代には、現在のようにDNA検査や血液型鑑定があるわけでもなく、父子の血縁関係を証明する手立てがありませんでした。その子どもを産んだ母親とはちがって、父親は血縁関係がはっきりとわかるわけではありません。とくに女性より男性の社会的立場が強かった当時は、父親である男性が「俺の子どもじゃない」「私の子どもとは認めない」と言い出すことも多かったため、子どもの立場を守って、その身分を早く確定するために一定のルールを設ける必要があったのです。

また、女性には離婚後100日は再婚できない「再婚禁止期間」があります(民法733条)。「嫡出推定」と同じように、「子どもの身分が不安定になることを避ける」ため、子どもの父親が誰なのか混乱を防ぐために、妊娠していた場合には離婚後100日は再婚できないと規定されています(前夫との再婚、女性が離婚時に妊娠していなかった場合など例外があります)。

現在では子どもの不利益の方が大きく

この法律では、「離婚した日から300日以内に生まれた子どもは、前夫の子どもであるとみなす」とされます。離婚した日から300日以内に子どもが生まれて、出生届を出すと、前夫との婚姻時の「婚氏」(苗字)が夫のものである場合には、子どもは自動的に「前夫」の戸籍に入ります。戸籍上、父欄には「前夫」の名前が記されます。たとえ親権が母親にあり、母親の手元で育てるとしても子どもの苗字が前夫の苗字であるというような状況も発生します。

このとき実際の血縁上の父が誰かは関わりません。役所としては離婚後300日経過後でなければ、父が前夫ではない出生届は通常受けつけません。

子の血縁上の父が前夫でないという状況は昔からありました。例えば「自宅出産の多かった1960年代半ばより前は多くの対象者が「誕生日をずらす」ということで離婚後300日を避け、後夫の子や非嫡出子として出生届を出していた」(※1)ということもあったのです。

しかし、病院出産が増えるにつれて、出生証明書の出生の日付をそう安々とはずらすこともできなくなり、父を前夫にするのを避けるために出生届を出さない、という選択が増えていきました。

現在でも「子の血縁上の父が前夫でない」ことはあります。たとえ法律上婚姻していても、別居していることもありますし、同居していたとしても実質的に夫婦関係が破綻していることもあります。前夫との婚姻中に他の男性の子どもを妊娠することもあり得る話でしょう。

例えば、爆笑問題の田中裕二さんとその妻の場合です。田中さんは2009年10月に離婚を発表しましたが、その半年後に元妻が妊娠していることが分かりました。何年も前から田中さんと元妻の夫婦関係破綻しており、元妻は別の男性と同居、妊娠したといいます。田中さん、元妻、相手の男性、の三者が田中さんの実子ではないと認識しているにもかかわらず、子どもは離婚後300日以内に生まれたので法律上「田中さんの子」として出生届が出されました。その後、家庭裁判所にDNA鑑定結果を提出し、子どもは「田中さんの子ではない」と法律上確定させる手続きがなされたそうです(※2)。

この田中さんのように、たとえ母、前夫、血縁上の父の三者が本当の父が誰であるか合意していたところで、戸籍上には血縁とは異なる状況が記述されてしまうわけです。

そもそも、妊娠から出産まではふつう40週<280日>で計算しますが、300日の設定だと、離婚後1か月で別の男性との子を妊娠して、出産予定日に出産しても「前夫」の子なってしまいます。また、子どもは出産予定日に生まれてくるとは限らず、早産のために出産する日が離婚後300日に達しない可能性もあります。さまざまな不都合が発生することは当然です。

(※1)井戸まさえ『日本の無戸籍者』p.5 岩波新書 2017年
(※2)「田中 前妻は離婚前に別男性の子を妊娠」デイリー 2013.01.13 (外部リンク)

できちゃった婚で結婚から200日以内の出産の場合は出生届で「認知」となる

ちなみに、最初にあげた民法第772条に「婚姻成立の日から200日を経過した後」に生まれた子どもは「結婚してから妊娠したものとする」とありますが、これは逆にいえば「婚姻成立の日から200日以内」に生まれた子どもは、「結婚してから妊娠したのではない」とされ、夫が本当の父親だとしても母の「非嫡出子(法律上の婚姻関係がない男女の間に生まれた子どものこと)」となりかねません。

しかし、おめでた婚やできちゃった婚であれば結婚してから200日以内に出産することは大いにありうるでしょう。実際には婚姻届出後、出生届の夫の欄に夫の名前を書いておけばただちに「認知準正」、つまり認知され「嫡出子」とされるという措置がとられています。

出生届を出さず子どもが無戸籍に

このように、離婚後300日以内に生まれた子どもが前夫の子ではなく、他の男性または再婚相手の子である場合、戸籍上子どもが「前夫」の子どもとされてしまうことを避けるために、母親が出生届を出さないケースがあります。

このような背景で出生届が出されなかった子どもは、戸籍が作られないので「無戸籍」となり、行政上はいないことになってしまいます。戸籍がないとパスポートが作れない、選挙に行かれない、結婚できない、運転免許が取得できないといった問題が生じます。

これはいわば「離婚後300日問題」から生ずる「無戸籍児問題」であり、早急な対応が求められるものといえます。最近は無戸籍の場合でも住民票をつくることができるケースが多く、児童手当の受け取り、保育所への通所、学校へ通学、健診や予防接種を受ける、などが可能になってきました。

「無戸籍者」は何人いるのか?

高市総務相は新型コロナウィルス関連の10万円の給付金に関連して、2020年3月時点で把握する無戸籍者は768人で、うち約4割は住民基本台帳にも登録がないとみていることを明らかにしています(※3)。また、学齢期の児童や生徒については、法務省が2019年に把握した無戸籍の43人全員が就学していることが確認されています(※4)。

しかし井戸まさえ氏によれば、国が把握している「無戸籍者」はごく少数であり、法務省が2014年から行っている「無戸籍者に関する実態調査」に回答を寄せた自治体は2割に過ぎず、多くの自治体が「登録していない人」を把握できていない。また、出生届を出さないまま調停、裁判になっているケースや、調停自体が不成立になった、取り下げをしてそのままになっているケース、身を隠して生きている人や公的機関にアクセスできていない人などを加味すると「無戸籍者」は1万人いるのではないか、と述べています(※5)。

(※3)「10万円給付、無戸籍者も対象に 高市総務相」日本経済新聞 2020年4月24日 (外部リンク)
(※4)「無戸籍の児童生徒43人全員が就学 4人が無戸籍状態解消」教育新聞 2019年12月25日 (外部リンク)
(※5)井戸まさえ『日本の無戸籍者』p.5 岩波新書 2017年

「前夫」を父としない子どもの戸籍をつくるには

離婚後300日以内に生まれた子どもについて、「前夫」を父としない子どもの戸籍をつくる方法はいくつかあります。

嫡出否認

民法772条では、妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子とされています。それに対してこの774条では、夫は「妻が生んだ子は自分と妻の子ではない」と否定できるとされています(期限は「子の出生を知った時から1年以内」)。ちなみに、この「嫡出否認」の権利は夫側にしか認められておらず、妻が「子どもは前夫の子ではない」と訴えを起こす権利はありません。

「嫡出否認」の申し立ては、裁判手続によってその「前夫」が父であるとみなされることを否定し、その後出生届を提出するという流れです。もちろん、前夫の中には自ら「自分の子どもじゃないのだからすぐに嫡出否認をしよう」と、裁判手続きにとりかかる人もいるでしょう。しかし、DVが原因の別居や離婚、その他の理由だとしても、前夫しか嫡出否認の申し立てができないので(しかも期限が決まっている)、「母親が前夫に申し立てをするように協力を頼む」ことは現実的にはかなり困難であるケースも多いと想像できます。

民法第774条「嫡出否認」

第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。

参考
裁判所「嫡出否認調停」 (外部リンク)

出生届提出時に「懐胎時期に関する証明書」を添付する

次に、もし離婚後の妊娠であれば医師の作成した証明書「懐胎時期に関する証明書」によって、「前夫」との婚姻中に妊娠した子ではないことを証明する方法があります。

「懐胎時期に関する証明書」を添付して出生届をすれば、裁判手続をしなくても、離婚後に妊娠したことを医学的に証明することができれば「前夫」との子という扱いになりません。子の父欄に前夫は記載されず、前夫の戸籍に入ることもありません。

参考

その他に、夫や前夫を相手に子どもや母親が申し立てをして父子関係がないことの確認を求める「親子関係不存在確認」や、DNA鑑定などをもとに血縁上の父を相手に子であると認めることを求める「認知調停」といった方法がありますが、いずれも裁判手続きをとらなければなりません。

参考

「嫡出推定」の規定の見直しへ向けて

前述のように、結婚から200日経過後か、離婚から300日以内に生まれた子は、婚姻中に妊娠と推定するという「嫡出推定」の規定は、現在から120年以上も前の明治時代に、生まれた子の戸籍上の父親を早く確定するために設けられたものです。

現在では離婚、再婚もめずらしいことではなく結婚や家族は多様化し、DNA検査で父子判定がすぐできるようになっています。子どもや女性側のデメリットが大きすぎ、現代の実生活に合っていない規定なのです。

この「離婚後300日」や「無戸籍」をめぐっては、「問題」として法律、行政レベルで広く認識されており、全国の市区町村役所や法務局で相談を受け付けていますし、弁護士会の無料相談もあります。戸籍がなくても住民登録は可能である、などの対応や支援もとられています。前述のように、新型コロナウィルス関連の10万円の給付金についても「無戸籍者」も給付対象であると示されています。

2019年7月、有識者らでつくる法務省の研究会は無戸籍者問題の解消のため、民法の「嫡出推定」の見直し案を公表しました。

  • 離婚して300日以内に生まれた子について、出生時に母親が前夫以外の男性と再婚していた場合などは前夫の子とみなさない。
  • 女性のみ離婚から100日が過ぎるまで再婚を禁止する現行の規定は不要。
  • 婚姻200日以内に生まれた子でも夫の子として嫡出の推定がされる。
  • 「嫡出否認」を子どもや母親も申し立てることができるようにすべき。

子どもの戸籍のことで悩むことがあれば、まずは法務局または市区町村の戸籍窓口に相談してください。

>>無戸籍でお困りの方へ/法務省(外部リンク)

参考

井戸まさえ『日本の無戸籍者』岩波新書 2017年
社説[「嫡出推定」見直し案 ]無戸籍救済へ改正急げ 沖縄タイムス 2019年7月31日(外部リンク)
民法772条(嫡出推定制度)及び無戸籍児を戸籍に記載するための手続等について/法務省(外部リンク)

監修
アイリス綜合行政書士事務所

行政書士・FP 田中真作
早稲田大学法学部卒業。行政書士・FP・宅地建物取引士。2003年行政書士登録。
相続や離婚などの一般市民法務相談や各種許認可業務など幅広く対応。
田中真作のFacebookページ(外部リンク)

Text by:AISA

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