おひとり様結婚式(または、おひとり様婚、ソロウェディングなどともいわれるらしい)の話題を耳にしたのは、渋谷区の一等地のイタリアンレストラン。お洒落なショップや、クリエーターの事務所が入るオフィスビルの近隣には住宅地が広がっている。“セレブ”と呼ばれる富裕層のマダムも多く、しかも美魔女のように強烈に自己アピールするでもなく、どちらかといえば余裕のある生活が伺えるマダム達が、ランチを楽しむ光景は、いつものどかだ。ところが、その話題を口にした途端に、40代マダム達の興奮がヒートしていった。「おひとり様結婚式だなんて。しかもブームなんですって」とか「ブランドのドレス写真がうっとりするほど綺麗だって」などなど、日ごろの余裕などさらっと簡単に捨てて、賑やかな女子トーク爆裂の光景に変わったのだ。

おひとり様の結婚式は、結婚の予定はないけど、ウェディングドレスを着てみたいというアラフォー独女のニーズをすくい取ったニッチなビジネスと評判だ。打ち合わせからドレスのフィッティング、フラワーデザイナーとのブーケ作成、宿泊、ヘアメイク、撮影、ハイヤーでの移動などのスケジュールに一泊二日、料金は30万円。お高めの予算のように見えるが、ウェディングドレスを着てみたいという願望も叶えば、思い出に残る美しい写真付き。またオプションで相手の男性(年代別に選択も可能)もつけることも可能とで、相手(ボーイフレンド)がいる場合は、同伴でハネムーンクラスのホテルに同伴していいという(ただし撮影用にオプションで選んだ花婿モデルは同伴不可ですが)。まさに思い出作りの演出にぬかりがない。

おひとり様の究極系が出現したと、賛否両論が飛び交っている。「一人ぼっちの結婚式なんて、みじめすぎる」などの反発や、「写真をどこに飾るの?」という戸惑いの声もある。一方で、「結婚式に縁のない女性も、ウェディングドレスを着るチャンスに恵まれた」「婚約破棄や離婚など、結婚にまつわる不幸な出来事があっても、自分らしい結婚式を夢みて、前向きになれる」という意見もある。

私はこのニュースを聞いた瞬間、かつてブームだった「人妻ヌード」を思い出した。ちょうど美魔女ブームとクロスする形で、40歳前後のアラフォーや、45歳前にヌードを撮影して記念に残したいというニーズが高まった頃だ。熟した果実のような肉体を披露することで、女として最高に美しいエロスを記念に残したいという妻達が、プロのカメラマンの手によって撮影される、まるで女優のようなヌード写真にうっとりした。撮影してもらった写真を、夫婦関係に生かすのが目的ではない。あくまでも女としての証を、黄昏れる前の一瞬に撮りおさめたかったのだ。老いていくことの準備として、熟した肉体を美しいままで残しておくために。

おひとり様結婚式も、「女としてまだイケている」と確認したい時期に、自信を持ってウェディングドレスを着こなしたいという女心の表れではないだろうか。記念に残るウェディング写真は、あくまでも自分自身のためなのだから。

私もどちらかといえばおひとり様結婚式に賛成派。だって、反対する理由がないから。1泊2日で夢が叶えたいと予算30万円をポンと出せる経済力があるなら、自由にどうぞと言いたい。もしその後で、男性との縁が生じて、世間でいう二人が主役の結婚式をすることになれば、面白さを発見できるかもしれない。楽しみが倍に膨らむだろう。

ところで、おひとり様結婚式のことを話題にしているのは、どちらかといえば、独身女性ではなく、私が目撃した既婚女性たちではないだろうか。きっと彼女たちは、おひとり様結婚式が羨ましいのだ。自分の結婚式では、手間暇がかかった割に苦労したことを思い出したのだ。1泊2日で気楽に結婚というスタイルは、独身女子の特権なのだから。