結婚後の働き方にも様々なスタイルが考えられるようになってきました。フリーランスという働き方を選んで、仕事も生活スタイルも、これまでにない新しい形を作り出す人たちは増えていているようです。実力主義といわれるフリーランスは、今後も注目の働き方になります。今回は、フリーランス同士や一方がフリーランスの場合、結婚後に必要な手続き、扶養を検討する際のポイントをまとめました。
フリーランスの結婚―忘れがちな手続きや、気になる「扶養」について
1. 増える新しい働き方と新しい夫婦の形
フリーランスというと、特定の企業や団体に拘束されず、独立し、案件、プロジェクトの度に契約を交わし、業務を行う仕事のスタイルを指します。個人事業主として事業を営んでいる場合もあれば、法人を設立して事業を営んでいる場合もあるでしょう。自営業といったりもします。今回の記事は、個人事業主として開業しているフリーランスや、個人で確定申告をしているフリーランスについて扱っていきます。
職種としては税理士やファイナンシャルプランナーなどの専門職や、IT系エンジニア、デザイナーやイラストレーター、フォトグラファー、ライターといったクリエイティブな職業が多いようです。WEBを活用して仕事に結びつくことも増え、副業として始めたことが認められフリーランスに転向する人もいます。
共働き夫婦の方がより多くなる中、どちらかがフリーランスというパターンも珍しいことではなくなっています。最近は、正社員でもリストラや倒産などのリスクがあり、安定的に仕事を得ていれば交際相手がフリーランスだから結婚に消極的という風潮も少なくなっているようです。
新しい夫婦関係ということでは、会社員の妻をサポートするために、フリーランスの夫が家事や育児を請け負う主夫になるケースもみられます。また、会社員の夫が生活を支える中、妻が新しく身に着けた技術でフリーランスとして開業していくこともあります。
2. 氏名変更の手続き
婚姻届
パートナーがフリーランスだった場合でも、婚姻届けを出すところまでは、ほかのパターンと同じです。氏名変更の手続きや住所変更の手続きは、会社員もフリーランスもどちらも必要です。
個人事業主は税務署で氏名変更の手続きを
フリーランスで個人事業主として開業している場合で名字が変わる場合は、税務署へ氏名変更の手続きが必要になります。管轄の税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」で氏名や事業所の住所変更などを届け出ましょう。その際には、新しい氏名の身分証明書をもっていく必要があります。
仕事上で使う名前と税務処理の名前
また、支払調書の作成などに必要になるのでクライアントへの氏名や住所変更の通達をし、領収書など各種書類の氏名変更依頼も忘れないようにしましょう。仕事上では、旧姓のままでという場合は、屋号として旧姓を使うこともできます。その際には相手先に対し、事業用では旧姓を引き続き使うと説明を添えると、報酬の払い込み銀行口座の氏名を変えている場合なども対応しやすくなります。
一方が会社員の場合「扶養」を検討してみる
会社員の方は、会社に結婚の報告をします。氏名や住所の変更があれば会社に届け出をしましょう。フリーランスの方は、収入によっては会社員の相手の方の扶養に入ることで節税できたり社会保険の負担を抑えられる可能性があります。フリーランスの結婚相手の扶養については次の章で説明していきます。
3. 一方が会社員で、フリーランスが扶養に入る場合
フリーランスの年収は、確定申告を行ってそれぞれに管理しているのが一般的です。年収によっては、結婚相手の会社の扶養に入ることで節税も可能です。会社員の方の扶養に入るかどうかを検討して、そうする場合は会社の担当部門に必要な書類を提出しましょう。下記に扶養に入れる条件をまとめてあります。会社や雇用契約の内容によってルールは違いますが、参考にしてください。
配偶者控除
2017年現在は、夫婦の一方(Aさんとします)の年間の所得金額(収入-経費や所得控除)が38万円以下であれば、納税者であるもう一方(Bさんとします)は所得に対して38万円の「配偶者控除」が受けられます。またAさんの所得が38万円超76万円未満である場合、Bさんは「配偶者特別控除」を受けられます。控除額はAさんの所得に応じて段階的に設定されています。所得と収入の違いに気をつけましょう。
2018年から税制が改正され、配偶者控除にいくつかの変更があります。 「配偶者控除」が適用されるAさんの所得金額が38万円以下というのは同じです。一方「配偶者特別控除」の対象は合計所得金額38万円超123万円以下の人までに拡大されます。控除額はAさんの所得の額に応じて段階的に設定されています。例えばAさんの所得が38万円から85万円までの場合、かつBさんの所得が900万円以下の場合、Bさんは38万円の配偶者特別控除が受けられます。
Bさんの所得が900万円以下、といいましたが、2018年からの税制のこれまでとの大きな違いはココ、Bさんの所得が勘案される点です。Bさんの所得が900万円を超えると配偶者特別控除の控除額は減額されます。Bさんの所得が1000万円(給与所得のみの場合年収で1120万円~1220万円)を超えると配偶者控除は適応されなくなります。2018年からは「Bさんの年収・所得額」によって、配偶者控除が受けられなくなることもあるという点に注意しましょう。配偶者特別控除の控除額を下記の表で示します。
住民税
会社員の方の扶養に入る場合(配偶者控除が受けられる基準である場合)は住民税を課税される所得が変わってきます。配偶者控除が受けられれば、住民税も節約できるようになります。
社会保険
一方が会社員である場合、会社の健康保険組合の規定にもよりますが、扶養家族にしたい家族の年収が130万円未満であれば扶養家族として認められる場合が多く、保険料が節約できます。年収の見込みが130万円を超えないうちは、扶養家族として保険料も会社の保険で賄えます。
年金
一方が会社員である場合、年金に関してはフリーランスの配偶者の年収が130万円未満のうちは、会社員の厚生年金の扶養として保険料が免除されます。
4. フリーランス同士の、保険や年金などの手続き
個人で開業し、確定申告をしているフリーランス同士の結婚では、個々の事情や収入によって控除の状況が違います。結婚後の申告の内容については、税理士や税務署の相談窓口などに相談して、自分たちに合った節税方法をさがしましょう。
配偶者控除
どちらかの収入が配偶者控除が受けられる基準であれば、会社員と同様に一方は扶養家族となることができ、配偶者控除、配偶者特別控除が受けられます。控除の基準は3章、一方が会社員である場合の、「配偶者控除」の節で示した基準と同様です。子どもが生まれれば、子どもの分の扶養控除も受けられます。
住民税
住民税はフリーランスの場合、確定申告をすることで自動的に計算されます。会社員の場合と同じで、どちらかが扶養にはいれる収入なら、住民税の節約が可能です。確定申告時に控除を申請すれば、そのほかは特に手続きは必要ありません。
健康保険
保険に関しては国民健康保険のみが選択可能でこれには扶養という概念はないので手続きもありません。国民健康保険の納税義務が世帯主にあることから、これまでは別々に受け取っていた納税通知が世帯主宛にくるようになります。
年金
年金は国民年金のみとなり、こちらも年収に限らず扶養という立場はなく、それぞれに保険料の納付書がきます。役所の年金課へ年金手帳をもっていきます。名前の被保険者氏名変更届を行えば手続きは完了です。
そのほか
フリーランス同士で出産や育児の際に休暇がほしいと思ったときには、残念ながら補助してくれる制度はありません。長期間仕事を離れる場合は、個人開業していた事業を一度廃業して、戻れるタイミングでまた開業する方法があります。数か月間のお休みであれば、廃業せずにクライアントとの交渉で乗り切っている人もいるようです。
夫も仕事の調整がつきやすいフリーランスであれば、育児の一番大変な時期を一緒に乗り越えることができるかもしれません。実際に、非正規雇用の男性の方が家事や育児への参加率は高いというデータもあります。二人らしい夫婦のありかたを模索できるのもフリーランス同士の夫婦の強みと、みられています。
5. まとめ
フリーランスの結婚事情はかつての時代より受け入れられやすい雰囲気になりました。最近では、自宅を中心にフリーランスで仕事をして主夫としても家事育児に参加する男性の姿も注目されています。夫婦の在り方が変わる中で、フリーランス夫婦やどちらかがフリーランスという夫婦の姿も珍しいことではなくなっていくでしょう。会社員のパートナーの扶養になる場合は、年収をしっかり管理して、会社に必要な資料や情報を提供できるとよいですね。フリーランスの相手には確定申告資料があるかなどを確認しておきましょう。