ブライダルチェックとは、性感染症がないかどうか、身体に不妊や流産のリスクを高める要因がないかどうか、母子感染する感染症がないか、ホルモンバランスはどうか、などを調べる検査のことです。「ブライダル」という結婚を意味する言葉が入っていますが、本来は結婚する・しない、している・していない、もっといえば妊娠や出産の希望にかかわらず、健康診断の一種として、として自分の身体について知るために受けておくとよいものです。また女性だけでなく男性も受けておいた方がいい検査です。
しかし、基本的に自費による検査項目が多いため費用が高額であり、「聞いたことはあるけれど実際に検査は受けたことはない」という人も多くなっています。今回は、ブライダルチェックの内容と検査によってわかること、費用相場など詳しくご紹介します。
1. ブライダルチェックとは?
女性の場合は、子宮や卵巣に病気がないか、ホルモンバランスはどうか、性感染症にかかっていないか、妊娠前にやっておいた方がよいワクチンがあるか、など身体に妊娠に不都合な点がないかどうかを調べます。男性の場合は性感染症がないか、精子(精液)に異常がないか、といったことを調べます。最近は婦人科(またはレディースクリニック)においても、夫婦・カップル・ペア検査プランなどがあり、女性だけでなく二人で一緒に検査を受けることもできます。男性のみであれば泌尿器科での検査も可能です。(詳しい検査の内容は5.検査内容をご覧ください)
2. ブライダルチェックを受ける機会と場所
婦人科やレディースクリニック、ウィメンズクリニックなど名称はさまざまですが、すべて女性の身体のトラブルや悩み(月経やおりもの、子宮、卵巣、乳房の病気、性感染症、PMS/PMDD、更年期障害、避妊、ピルの処方、不妊など)に対応する病院です。それらの病院で「ブライダルチェック」「婦人科基本健診」「妊活健診」「妊活チェック」などの名称で検査を行っています。
健康診断ですから「ブライダルチェック」にだけ行ってもいいですし、一般的な婦人科検診(子宮がんや卵巣がん、乳がん検診)や人間ドックに加えて受けると何度も足を運ばずに済みます。さらに希望があればオプションの検査を組み合わせることもあります。
男性は、男性やカップル・夫婦のブライダルチェックを行っている婦人科やレディースクリニックの「ブライダルチェック」「メンズブライダルチェック」といった名称の検査の他に、泌尿器科の基本の精子検査や「男性向けブライダルチェック」などを受けるのが一般的です。
不妊の原因には、男性に原因があるもの、女性に原因があるもの、両者に原因があるものがあり、不妊の40~50%は男性側が関与しているといわれています。しかし早めに、より正確な身体の状態を把握すれば体調やストレスを整えて改善していく方法はあるといわれています。基本的な健康診断ですから、まずは自分の身体の今の状態について知ることが大切です。(※1)
3. 不妊検査とは違う
ブライダルチェックは、男女ともに妊娠を阻害する要素が身体にないかどうかを調べる基本的な検査で、1日(1回)の受診で完了するものです。一方不妊検査は妊娠しない理由を探っていく検査で、ブライダルチェックの結果によってさらに詳しい検査が必要になって複数回検査したり、検査の結果から原因を特定できるまでに時間を要するものがあったり、治療や改善のために通院する必要が出てきたりすることがあります。(※2)なお、日本産科婦人科学会では「不妊」を「妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず1年間妊娠しない」と定義しています。
4. 費用相場
ブライダルチェックの検査方法や所要時間、内容は病院によって大きく異なりますので、何の検査を受けたいのか、オプションではどんな検査ができるのかを確認しておきましょう。「ブライダルチェック」は保険適用されない検査が多いので比較的高額です。
費用の相場は検査の内容によって異なりますが女性の基本検査が15,000円~50,000円程度、男性が10,000円~40,000円、カップルや夫婦などペアで25,000円~60,000円程度となっています。オプション検査の一つ一つは3,000円~8000円程度のところが多いようです。検査の組み合わせとして、基本検査のみ、基本検査+オプション検査、フルセット検査などがありますが、いくつかの病院やクリニックの例をご紹介します。
ブラダルチェック検査費用例
クリニックA
- 基本セット(男女) 15,000円
問診、風しん抗体、感染症(梅毒、B型肝炎、C型肝炎、HIV、クラミジア)
- フルセット(女性) 36,000円
基本セット+その他の感染症や甲状腺の検査など
- 精液検査(男性) 10,000円
クリニックB
- 基本セット(女性) 20,750円
経腟超音波検査(子宮、卵巣)や各種感染症(B型肝炎、C型肝炎、梅毒、HIV、クラミジア)や風しん抗体の有無
- フルセット(女性) 41,140円
基本セット+内分泌ホルモン検査、腫瘍マーカー、尿検査など。
クリニックC
- ブライダルチェックセット(女性) 18,000円
経腟超音波(子宮、卵巣)、各種感染症(B型肝炎、C型肝炎、梅毒、クラミジア、淋病)や麻しん・風しん、おたふくかぜ抗体の有無
- ブライダルチェック(男性) 25,000円
クラミジア、淋菌、B型肝炎、C型肝炎、梅毒、HIV、風しん抗体、ホルモン検査
検査にかかるコストをもっと抑えたい場合は、「ブライダルチェック」を一か所の病院で受けるのではなく、検査の種類ごとに受ける場所を分ける方法もあります。子宮がんや卵巣がん、乳がん検診は自治体や職場の健診を利用して最寄りの内科や婦人科で受けたり、風しん抗体検査には自治体の助成金や無料クーポンを配布したりしている場合もあります。いつも受けている健診の内容や住んでいる自治体の情報を確認してみてください。
5. 検査内容
病院やクリニックによって検査の内容はまちまちです。男女両方の基本的な検査としては、血液検査、性感染症検査、ホルモン検査などがあります。オプション検査ではより細かいさまざまな検査があります。
男女両方の検査
超音波検査(子宮・卵巣/前立腺・精巣)
女性は子宮や卵巣に異常がないかを調べます。男性は精巣の状態をチェックし、前立腺疾患がないかなどを調べます。
B型肝炎、C型肝炎ウイルス検査(血液検査)
B型肝炎は生まれてくる赤ちゃんが産道で感染する可能性があり、赤ちゃんに感染しても多くは無症状ですが、まれに乳児期に重い肝炎を引き起こすことがあります。C型肝炎は血液を経由して感染するため、母子感染する可能性があります。
性感染症検査(クラミジア、梅毒、HIV)
女性は腟分泌液(おりもの)検査で、男性は尿検査で感染の有無を調べます。
クラミジアは日本で最も一般的な性感染症です。ほとんどの人が症状を感じず、気づかないままパートナーへうつしてしまうこともあります。男性が感染した場合は尿道炎、悪化してしまうと前立腺炎や副睾丸炎(精巣上体炎)が起こります。2つの睾丸がどちらも副睾丸炎になると不妊症を引き起こすリスクが高くなります。男性は尿検査で感染の有無を調べます。女性が感染した場合は子宮頸管炎、子宮内膜炎、卵管炎、腹膜炎などを起こします。自覚症状があまりないため、感染に気づかないまま慢性化させてしまったり、子宮頸管の通過障害や着床障害、卵管障害を起こしてしまったりする可能性もあります。
梅毒は昔から知られる性感染症の一つで、妊娠している人が感染すると胎盤を通して胎児に感染します。血液検査で調べることができます。母体が無治療の場合、40%は流産や死産となり、生まれた場合も障害がみられます(先天性梅毒)。
エイズウイルス(HIV)への感染によって、10年程度の潜伏期間を経て、エイズ(後天性免疫不全症候群)は発症します。血液検査で調べることができます。無症状のままHIVに感染しているケースもあるため、HIVの感染の有無は検査が必要です。
参考
STD研究所(外部リンク)
風しん抗体検査
風しんは風しんウイルスによっておこる急性の発疹性感染で、風しんの免疫が不十分な妊娠20週頃までの妊婦が風しんウイルスに感染すると、生まれてくる赤ちゃんが目、耳、心臓などに病気を持つ「先天性風しん症候群」の子どもが生まれてくる可能性が高くなります。
風しん抗体検査は、風しんにかかったことがあるかどうかを、前もって調べる検査です。風しん抗体検査(血液検査)で風しんの感染が確認された場合は予防接種を受ける必要はありませんが、抗体が不十分な場合にはワクチンの接種を検討しましょう。風しん抗体検査は、無料で受けられる事業や予防接種の助成が多くの自治体で行われています。住んでいる自治体の風しん対策事業をご確認ください。
(例)横浜市(※3)
指定医療機関で風しんの抗体検査や予防接種を以下の条件で受けることができます。
- 対象は19歳以上の横浜市民で、妊娠を希望している女性(妊娠中は接種できません)か、妊娠を希望されている女性のパートナー・同居家族(婚姻関係は問わず)、妊婦のパートナー・同居家族(婚姻関係は問わず)
- 風しん抗体検査(血液検査) 無料
- 麻しん風しん混合ワクチン 1回3,300円(税込)
- また、昭和37年4月2日から昭和54年4月1日までに生まれた男性に対しては、抗体検査と予防接種のクーポンが自治体から送付されています。
(例)徳島県/徳島市(※4)
風しんの抗体検査が無料で受けられる対象
- 妊娠を希望される又は妊娠する可能性の高い女性(妊婦は除く)
- 昭和54年4月2日から平成2年4月1日までに生まれた男性
また、この県や市の風しん抗体検査で「抗体価が低い」と判定された人を対象に予防接種に要した費用の半額が助成されます。
男性のみの検査
精液検査
2~7日射精しない期間を設けた後、病院または自宅(30分以内に持参など諸条件あり)で精液を採取して精液量、精子濃度、運動率、運動の質、精子の形態、感染の有無などを調べます。
男性ホルモン検査
男性ホルモン(テストステロン)や卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)、プロラクチン(PRL)などの量を測定し、造精機能障害がないかなどを調べます。
女性のみの検査
子宮頸がん検査
子宮頸がんは子宮の入り口(子宮頸部)にできるがんで、初期は自覚症状がないことが多く、検診を受けてはじめて発見されるケースがほとんどです。子宮頸がん検診には検診助成制度があり、各市区町村や職場などによって検診の対象者や検診間隔、助成内容が異なります。お住いの自治体の助成内容をご確認ください。
例:子宮頸がん検査(問診や子宮頸部の細胞診)を以下の費用で受けることができます。
- 新宿区 20歳以上の女性を対象に2年度に1回900円
- 横浜市 20歳以上の女性を対象に2年度に1回1,360円
- 福岡市 20歳以上の女性を対象に2年度に1回400円か1,200円(検査実施場所により異なる)
なお、子宮頸がんを予防するHPVワクチンについては、2013年4月から定期接種がはじまり、小学6年生から高校1年の女子は誰でも無料で接種できるようになり、子宮頸がんは「予防できるがん」と言われています。(※5)
参考
子宮がん検診「公益財団法人東京都予防医学協会」(外部リンク)
甲状腺機能検査(血液検査)
甲状腺機能異常は女性に多く、妊娠を考える年代の女性にバセドウ病や橋本病といった甲状腺疾患がみられることがあり、妊娠前に治療が必要な場合があります。
女性ホルモン検査
LH(黄体刺激ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、TSH(甲状腺ホルモン)、プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)の検査をします。ホルモンバランスが崩れると月経不順や月経が止まるといった不調につながることがあります。
(※1)いまもと泌尿器科クリニック(外部リンク)
(※2)山口レディースクリニック「ブライダルチェックと不妊検査の違いについて」(外部リンク)
(※3)横浜市 19歳以上の風しん予防接種と抗体検査(外部リンク)
(※4)
徳島県「風しん抗体検査を受けましょう!」(外部リンク)
徳島市「風しん予防接種費用を助成します」(外部リンク)
(※5)『コウノドリ』モデルの小児科医が語る「HPVワクチン」放置の危険性(外部リンク)