ぼくは結婚に不向きな人間だと思っていました。人間嫌いだし、独りが好きだし、面倒なことが嫌いだし、協同作業とか苦手だし、ほかにもいろいろあって・・・。ところが、妻と出会って、ずっとこの人と一緒にいたい、と思うようになって、自分からプロボーズしました。「結婚してください」と言いながら、おい、おい、いま何を言ってるか分かってるのか? 結婚て、いちばんおまえに向いてないことだろう! と自分に強烈なツッコミを。

愉しいおつきあいの期間を経て、妻はプロポーズを受け入れ、ぼくらは結婚しました。この人とずっと一緒にいられる―それだけで、ぼくは幸せでした。

ところが。仲のいい夫婦が一緒に暮らしていれば、ごく自然な現象が起きました。妻が妊娠したんですね。理屈では分かっていたけれど、実際にそうなってみると、びっくりです。自分が父親になるなんて。実は、ぼくは子供が嫌いだったんです。何を考えているか分からないし、自分勝手だし、よく泣くし……ああ、ユーウツ。ユーウツな日々が続いて、とうとう思い切って妻に言いました。

「ぼくは父親になる自信がない」  すると、妻はこともなげに答えました。 「いいわよ。子供は、私が独りで育てるから」

妻は保育士です。確かに、子供の世話は慣れたもの。ぼくは単純な人間なので、それで肩の荷が下りました。子供は無事に産まれました。元気な男の子です。別に父親になる必要はないんだ―そう思うと、かわいい気がする。抱いても不快じゃない。こわごわながらミルクもやれる。それから3か月後。保育士の妻は仕事に出掛け、ぼくは微熱のある息子を負ぶ紐で背負い、〆切の原稿に追われてキーボードを叩いていました。

そうです。ぼくが、元祖イクメンです。